『雨とつばめ』
おまじないの一色
この浴衣が、誰かを素敵に輝かせます様に。
雨とつばめのネイビー色は一見シンプルに見える商品ですが、このネイビーを染めた染料には黒と青以外に”おまじないの一色”が入っています。
「女性用の服地の黒には”ある色”をほんの少しだけいれてあげるんだよ」そうおっしゃっていた奥田染工場の前社長。はじめてお目にかかったのは私の行っていた大学の特講の先生だったため、卒業してからも先生、と呼ばせて頂いていた。
「ほんの少〜し入れるだけで布が優しくなるからね。」
数年の間に何度か聞いたお話。でも、黒にほんのちょっと他の色を足してそんなに変わるものだろうか、変わった所でそれほどの意味があるのだろうかと半信半疑で聞いていた。
この雨とツバメのネイビーも黒に近い色のため、先生のおっしゃっていた”ある色”をほんの少し1gにも満たない量を加えてみた。良く見れば、僅かに色が変わったのが分かる程度。ああ、やっぱりこんなものか、一瞬そう思ってしまう程の少しの差。でも、その僅かな差が13メートル分の布を染め浴衣になった時、色に深みを作り、着る人の肌にしっくり馴染むかどうかの大きな差になるのだと気づかされた。
「先生、おっしゃる通り素敵な布になりましたよ。」そうご報告したいのに、昨年の終わり、空が真っ青で綺麗な日のお昼に、先生は天国に行ってしまった。
あまりに早いお別れ、というか私が遅すぎたのかもしれない。
自分の会社の経営を顧みず、若い駆け出しのデザイナー達を支え続けた先生。知識も経験も技術も、全てを与えてくれた。彼らの服が素敵になるように、成功していくように。活躍して羽ばたいていく姿を何より嬉しそうに話していた。そんな先生が私に与えてくれた知恵の一つが黒の作り方。
誰かを素敵に輝かせます様に。その日一日が素晴らしい日であります様に。
ネイビーにおまじないの一色を入れています。
Designer 吉田 留利子